「飲み込む」という動作について意識したことはありますか? あまりに日常過ぎて、深く考えたことがない方も多いでしょう。専門用語では「嚥下」と呼び、口の中に入った食べ物が、のどから食道に送り込まれることをいいます。
嚥下は、大きく5段階に分けられます。まず、視覚や嗅覚で食べ物を認識する「先行期」、続いて口に入れた食べ物を噛んで(「咀嚼」という)唾液と絡ませ、飲み込みやすい形状にする「準備期」、舌でのどに送り込む「口腔期」、のどから食道へ送り込む「咽頭期」、最後に食道から胃へ送り込む「食道期」です。
嚥下には「水分や食べ物の栄養をからだに取り込む」という、生命を維持するためにとても重要な役割がありますが、残念ながらやはり、加齢と共に低下していきます。原因は、必要な筋力の衰えや、口周りの感覚の鈍化などです。
そもそも「飲み込む」という動作には、口の周りのさまざまな部位が関わっています。例えば唇は、飲食物を捉えて口の中に送り込む働きを、歯は、食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせる役割を担っています。顎を動かすためには頬の筋肉が必要ですし、上顎がなければ口を動かして噛む動作を行うことができません。口の中の食べ物を動かしたりまとめたりのどに送り込んだりするのは舌の役割で、最後にのどがそれを受け止め食道に届けます。これらがしっかり連携して初めて、嚥下がスムーズに行われるのです。逆をいえば、どれかが衰えてしまえば上手くいかず、その結果起こるのが、通常ルートとは異なる器官に飲食物が入ってしまう「誤嚥」です。
実は、シニアに多く見られる「食事中にむせる」「食後に痰が絡む」などの症状は、からだが誤嚥を防ごうと自ずと起こしている防御反応。これらが多発する場合は、飲み込む力が低下している可能性があるので注意が必要です。