「アレ、取って」「ほら、俳優のアノ人」…。年齢を重ねると増えてくる、「あれ」「それ」などの指示語。会話にこのような言葉が頻出するのを自覚すると、「いずれ認知症になるのではないか…」と心配される方も多いかもしれません。
まず最初に、その心配はいらないとお伝えしておきましょう。頭の中で思い浮かんだことの直接的な名称が出てこないという現象は、実は「記憶力や認知力」よりも、「注意力」の低下のほうが大きく関わっています。
人には元来「ワーキングメモリー」という一時的に記憶を留める能力が備わっています。しかし高齢になると、この能力が低下してしまうため、一つのことに注意が向くとその前に考えていたことが思い出せず、結果的にあれ・それになってしまいます。「電話をかけようとしたら、ゴミが落ちているのが目についた。ゴミを捨てたら、電話をかけることを忘れていた」というのも、同様に注意の問題です。
この場合の対処は簡単です。一度に2つのことをしないよう心がけてみてください。例えば、「お風呂が沸いたよ、着替え用意しておくね」と声をかけられたとします。これは「お風呂に入って」と「着替えを用意したから使って」という2つのことを一度に伝えていますので、どちらかの動作には注意が向きますが、もう一つは頭に残りません。「要件は一つに留めること」が大事。自分で行動する時はもちろん、家族に声をかけてもらう時にもそう伝えておくとよいですね。
残念ながら注意力に関係なく、認知症のリスクは誰にでもあります。ただし、認知症になっても取るべき対処は一緒なので、今からこの生活術を身に付けておくと慌てずに済みます。
それから、年を取っても衰えない脳の機能があることも、是非お伝えしておきます。それが「語彙力」です。人生経験が長いほど語彙力は豊かになります。俳優さんの名前が思い出せない時、見た目の特徴や出演作品など、周辺の情報をさまざまな言葉を使って説明することで伝わった、という経験をお持ちではないでしょうか。まさに語彙力のなせる技です。
ただし語彙力も、誰かに話そうと実際に使ったり、新しい言葉を入手したりしなければ保たれません。そのためにも、世代の違う人や、多様な環境でのコミュニケーションを増やし、脳に刺激を与えることが大切です。近年はコロナ禍で外出や会話をする機会が減ってしまったでしょうから、感染には十分に注意しながらも、できる範囲で活動の幅を広げていきましょう。