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会津より綴る あるがまま、31字に吾を詠む

会津より綴る あるがまま、31字に吾を詠む
  • 会津より綴る あるがまま、31字に吾を詠む
あるがまま、31字に吾を詠む

ほんたうは老いの意識のなきままに
老いを生きをり 時に戸惑ふ


 新しい年が明ける。2024年は、どんな年になるのだろう。

 去る夏は、気象庁がデーターの分析を始めてから126年来、7月・8月・9月の平均気温が過去最高だったというから驚いた。「地球沸騰化現象」とも呼ばれた異常気象である。あの現象が、冬型に形を変えて、新たな異常を起こさぬようにと、新しい年へ切に祈りを捧げている。


家揺らす如き豪雨にひとたびは
脱ぎたる服を纏ひて寝ぬる

メモ帳を傍へに日々を過ごしゐる
知らざる片仮名言葉の多く

「黙食」の言葉は寂し独り居の
身には常なる三十年余


 私は、4年前の春、一冊のノート『コロナよ、お手柔らかに』を作った。

 不気味な感染症が日本をも席巻しようとしていた時で、不安も哀しみも喜びも、解らないこと、解らない言葉…、何でも次々と書き込んでゆくことにした。これから私たちの生活は一体どうなるのかと、不安だったのだ。

 だが振り返ってみれば、それが結果として、歩けない独り暮らしの私を落ち着かせ、過去の療養生活とそれほど変わらないもののように思わせてくれた。三密回避・自粛の多くは、療養生活にも共通するものだった。

 むしろ大きく変わらざるを得なかったのは、私よりも周りの健康な人々の生活だろう。どれほど不自由さを求められたことかを思う。其のなかで、みんな耐えながら自分なりの生活を必死で模索し、今日に至ったのだと思う。

 あれから4年、最近のノートは歌のメモ帳に変ってしまったが、それも悪くない。年のせいか、いつしか文章を書くのが億劫になって、短歌めいたもので溢れていた。上手も下手もなく、心にとめておきたいことを、31文字のリズムにのせてみる。ただそれだけのことだが、これが今の私のせめての努力、せめての頭の体操である。

 さあ今年の冬は、どうなるのか。会津の冬の記憶が甦る。


我が庭のかたち無くして降り積もる
雪は土塀の高さ超えたり

除雪車の音響き来る午前3時
彼らの日々は一冬続く

低温に充電不能と表記さる
こんな日もあり携帯抱く

太郎雪次郎雪とも呼ばれつつ
集落ひとつ消して降りつぐ


 それでもやはり、年の重なりは感じる。歳をとると、若い時のようにいろいろ悩まなくはなる。「ま、いいか」と大抵は受け容れられるようになるから不思議である。若さを羨ましいと思うこともあるが、年を経ることで得た、静かな安らぎもある。
「ありのままでいいのだ」という、安らぎである。

 もう大きな目標は立てない。失敗にも嘆かない。だが、失敗ほど人生を深く考えさせてくれるものはないようにも思うのだ。幾つかの後悔は今も胸の奥深くあるが、其のことを思い出すたびに素直になれるような気がするから、これも不思議である。
 もの忘れもふえた。自分の老いさえ、忘れる時がある。ひとりひっそり笑ってしまう。


雪の闇ふかく尾をひく除夜の鐘
今年もひとり年を越すべし


 皆様、いつも有り難うございます。呉々もお元気で、よいお年をお迎えください。

 皆様のご健康とご多幸を、心よりお祈りしています。

大石邦子(おおいし・くにこ)
著述家、エッセイスト。
会津女子高等学校卒業後、出光興産会津事務所に入社。1964年に交通事故に遭い、半身不随となる。長期間の闘病・車いす生活を送る一方、著述家として活躍。
著書に『この生命ある限り』他多数。

商品特徴

会津より綴る あるがまま、31字に吾を詠む

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あるがまま、31字に吾を詠む

ほんたうは老いの意識のなきままに
老いを生きをり 時に戸惑ふ


 新しい年が明ける。2024年は、どんな年になるのだろう。

 去る夏は、気象庁がデーターの分析を始めてから126年来、7月・8月・9月の平均気温が過去最高だったというから驚いた。「地球沸騰化現象」とも呼ばれた異常気象である。あの現象が、冬型に形を変えて、新たな異常を起こさぬようにと、新しい年へ切に祈りを捧げている。


家揺らす如き豪雨にひとたびは
脱ぎたる服を纏ひて寝ぬる

メモ帳を傍へに日々を過ごしゐる
知らざる片仮名言葉の多く

「黙食」の言葉は寂し独り居の
身には常なる三十年余


 私は、4年前の春、一冊のノート『コロナよ、お手柔らかに』を作った。

 不気味な感染症が日本をも席巻しようとしていた時で、不安も哀しみも喜びも、解らないこと、解らない言葉…、何でも次々と書き込んでゆくことにした。これから私たちの生活は一体どうなるのかと、不安だったのだ。

 だが振り返ってみれば、それが結果として、歩けない独り暮らしの私を落ち着かせ、過去の療養生活とそれほど変わらないもののように思わせてくれた。三密回避・自粛の多くは、療養生活にも共通するものだった。

 むしろ大きく変わらざるを得なかったのは、私よりも周りの健康な人々の生活だろう。どれほど不自由さを求められたことかを思う。其のなかで、みんな耐えながら自分なりの生活を必死で模索し、今日に至ったのだと思う。

 あれから4年、最近のノートは歌のメモ帳に変ってしまったが、それも悪くない。年のせいか、いつしか文章を書くのが億劫になって、短歌めいたもので溢れていた。上手も下手もなく、心にとめておきたいことを、31文字のリズムにのせてみる。ただそれだけのことだが、これが今の私のせめての努力、せめての頭の体操である。

 さあ今年の冬は、どうなるのか。会津の冬の記憶が甦る。


我が庭のかたち無くして降り積もる
雪は土塀の高さ超えたり

除雪車の音響き来る午前3時
彼らの日々は一冬続く

低温に充電不能と表記さる
こんな日もあり携帯抱く

太郎雪次郎雪とも呼ばれつつ
集落ひとつ消して降りつぐ


 それでもやはり、年の重なりは感じる。歳をとると、若い時のようにいろいろ悩まなくはなる。「ま、いいか」と大抵は受け容れられるようになるから不思議である。若さを羨ましいと思うこともあるが、年を経ることで得た、静かな安らぎもある。
「ありのままでいいのだ」という、安らぎである。

 もう大きな目標は立てない。失敗にも嘆かない。だが、失敗ほど人生を深く考えさせてくれるものはないようにも思うのだ。幾つかの後悔は今も胸の奥深くあるが、其のことを思い出すたびに素直になれるような気がするから、これも不思議である。
 もの忘れもふえた。自分の老いさえ、忘れる時がある。ひとりひっそり笑ってしまう。


雪の闇ふかく尾をひく除夜の鐘
今年もひとり年を越すべし


 皆様、いつも有り難うございます。呉々もお元気で、よいお年をお迎えください。

 皆様のご健康とご多幸を、心よりお祈りしています。

大石邦子(おおいし・くにこ)
著述家、エッセイスト。
会津女子高等学校卒業後、出光興産会津事務所に入社。1964年に交通事故に遭い、半身不随となる。長期間の闘病・車いす生活を送る一方、著述家として活躍。
著書に『この生命ある限り』他多数。

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2024年1月11日

会津より綴る あるがまま、31字に吾を詠む

あるがまま、31字に吾を詠む

ほんたうは老いの意識のなきままに
老いを生きをり 時に戸惑ふ


 新しい年が明ける。2024年は、どんな年になるのだろう。

 去る夏は、気象庁がデーターの分析を始めてから126年来、7月・8月・9月の平均気温が過去最高だったというから驚いた。「地球沸騰化現象」とも呼ばれた異常気象である。あの現象が、冬型に形を変えて、新たな異常を起こさぬようにと、新しい年へ切に祈りを捧げている。


家揺らす如き豪雨にひとたびは
脱ぎたる服を纏ひて寝ぬる

メモ帳を傍へに日々を過ごしゐる
知らざる片仮名言葉の多く

「黙食」の言葉は寂し独り居の
身には常なる三十年余


 私は、4年前の春、一冊のノート『コロナよ、お手柔らかに』を作った。

 不気味な感染症が日本をも席巻しようとしていた時で、不安も哀しみも喜びも、解らないこと、解らない言葉…、何でも次々と書き込んでゆくことにした。これから私たちの生活は一体どうなるのかと、不安だったのだ。

 だが振り返ってみれば、それが結果として、歩けない独り暮らしの私を落ち着かせ、過去の療養生活とそれほど変わらないもののように思わせてくれた。三密回避・自粛の多くは、療養生活にも共通するものだった。

 むしろ大きく変わらざるを得なかったのは、私よりも周りの健康な人々の生活だろう。どれほど不自由さを求められたことかを思う。其のなかで、みんな耐えながら自分なりの生活を必死で模索し、今日に至ったのだと思う。

 あれから4年、最近のノートは歌のメモ帳に変ってしまったが、それも悪くない。年のせいか、いつしか文章を書くのが億劫になって、短歌めいたもので溢れていた。上手も下手もなく、心にとめておきたいことを、31文字のリズムにのせてみる。ただそれだけのことだが、これが今の私のせめての努力、せめての頭の体操である。

 さあ今年の冬は、どうなるのか。会津の冬の記憶が甦る。


我が庭のかたち無くして降り積もる
雪は土塀の高さ超えたり

除雪車の音響き来る午前3時
彼らの日々は一冬続く

低温に充電不能と表記さる
こんな日もあり携帯抱く

太郎雪次郎雪とも呼ばれつつ
集落ひとつ消して降りつぐ


 それでもやはり、年の重なりは感じる。歳をとると、若い時のようにいろいろ悩まなくはなる。「ま、いいか」と大抵は受け容れられるようになるから不思議である。若さを羨ましいと思うこともあるが、年を経ることで得た、静かな安らぎもある。
「ありのままでいいのだ」という、安らぎである。

 もう大きな目標は立てない。失敗にも嘆かない。だが、失敗ほど人生を深く考えさせてくれるものはないようにも思うのだ。幾つかの後悔は今も胸の奥深くあるが、其のことを思い出すたびに素直になれるような気がするから、これも不思議である。
 もの忘れもふえた。自分の老いさえ、忘れる時がある。ひとりひっそり笑ってしまう。


雪の闇ふかく尾をひく除夜の鐘
今年もひとり年を越すべし


 皆様、いつも有り難うございます。呉々もお元気で、よいお年をお迎えください。

 皆様のご健康とご多幸を、心よりお祈りしています。

大石邦子(おおいし・くにこ)
著述家、エッセイスト。
会津女子高等学校卒業後、出光興産会津事務所に入社。1964年に交通事故に遭い、半身不随となる。長期間の闘病・車いす生活を送る一方、著述家として活躍。
著書に『この生命ある限り』他多数。