毎日の「食べる」に欠かせない、「噛む」という動作。しかし残念ながら、むし歯や歯周病などによる歯の欠損や、口周りの筋肉の衰えが原因となり、高齢者の噛む力は40〜50代の3分の1~10分の1まで低下するといわれています。
噛む力が弱まると、食べ物を細かく砕き、唾液と混ぜて飲み込みやすくすることができなくなります。その結果、誤嚥を招いたり消化吸収に影響を及ぼしたりと、全身の健康を悪化させる懸念も。つまり高齢者にとって、噛む力を維持し、よく噛む習慣を持つことはとても重要です。
噛む力がある大きなメリットとしてはまず、①いろいろな食材や料理が食べられ、栄養の偏りを防止できることが挙げられるでしょう。また、②食べ物を細かく咀嚼できることで胃腸での消化吸収がよくなりますし、咀嚼によって③脳の血液量が増えその働きを活性化させたり、④唾液の分泌が促されて食べ物が飲み込みやすくなり、誤嚥を防いだりもできます。唾液には口の中を潤し清潔に保つ働きがあるため、むし歯や歯周病、口臭対策などにも効果的です。
実際に「噛む力と健康余命の関係」を示したデータ(下)でも、咀嚼力が高い人ほど健康余命が長いことがわかっています。
以前、私が高齢者施設で働いていた時、一時的に、胃に直接栄養剤を注入して栄養補給をされていた方がいました。表情は乏しく憔悴した様子。しかし「口から食べる」ことを強く望まれリハビリをし、普通食が食べられるようになると、みるみる笑顔になったのです! 食事が心の健康に繋がっていることも改めて実感しました。